行政書士向けセミナーで話したAI活用6例と、AIに任せてはいけない線引き

2026年7月17日 / お知らせ

2026年7月17日、行政書士向けのセミナーで登壇しました。

テーマは「SNS動画マーケティング×AI活用 ~7年発信して分かったこと~」。本編60分に質疑応答30分、スライドは96ページになりました。前半が動画の話、後半が行政書士の実務でのAI活用という二部構成です。

この記事では、当日のスライドを何枚か出しながら、話した中身を書き出しておきます。

先に正直なところを書きます。この回は録音を取っていません。 だから「会場がどこで沸いたか」「どんな質問が出たか」は、ここには一切書けません。書けるのは、スライドに載せた内容と、事前に組んだ構成だけです。以下は「こう話した」ではなく「こういう組み立てのセミナーだった」として読んでください。

士業が動画をやらない「4つの言い訳」から始めた

本編に入る前に、先に潰しておきたいものがありました。これです。

スライド「士業が動画をやらない4つの言い訳」。①うちはローカル商売だから ②時間がない ③顔出し・失敗が怖い ④今からじゃもう遅い、の4つがカードで並んでいる

士業が動画をやらない理由は、だいたいこの4つに集約されます。①ローカル商売だから ②時間がない ③顔出し・失敗が怖い ④今からじゃもう遅い。

そしてこの4つをひっくり返したものが、そのまま当日の目次になっています。

言い訳 当日の回答ブロック
ローカル商売だから 【動線】ウェブはローカルにこそ効く仕組み
時間がない 【第2部】AI活用
失敗が怖い 【入口】AIとABテスト
今からじゃ遅い 【継続】の技術

言い訳②「時間がない」への答えを、まるごと後半のAIパートに置いた。ここがこの記事の本題につながります。

なお①については、スライドにこう書きました。

ウェブは全国に飛ぶ。仕事は地元に落ちる

全国に向けて発信して、返ってくる仕事はほぼ地元。矛盾に聞こえますが、地元のお客様が依頼の前に検索して、動画で人柄を確かめてから来るからです。全国発信は、地元での信用装置として働きます。

動画の仕事は3つだけ

スライド「今日渡したい1枚:動画マーケの地図」。認知(見つけてもらう)→ 信頼(役立って関係をつくる)→ 行動(相談・問い合わせへ)の3つの円が矢印でつながっている

動画マーケティングと言うと難しく聞こえますが、やることは3つだけです。認知(見つけてもらう)→ 信頼(役立って関係をつくる)→ 行動(相談・問い合わせへ)。 世の中のノウハウは、全部このどこかの部品にすぎません。

これを実務に落とすと、判断ポイントは【設計】【制作】【入口】【動線】の4つ、それを支えるのが【継続】。当日は「この1枚だけ持って帰ってもらえれば元は取れます」という置き方をしました。

セミナー冒頭で、ルールも1つ宣言しています。

今日は、やり方ではなく判断軸だけ

機材の選び方も編集手順も、当日はやっていません。これから始める人に手順を60分浴びせても、動けなくなるだけだからです。制作パートで出した判断軸は、この4つでした。

ショートはチラシ、ロングは資産。ただし例外はある

スライド「ショートはチラシ、ロングは資産」。左のSHORTは急騰してストンと落ちる波形、右のLONGは階段状に積み上がる波形。それぞれ「瞬間拡散のチラシ」「検索され続ける資産」と書かれている

再生データを波形にすると、きれいに2種類に分かれます。ショートは出た瞬間に跳ねて、ストンと落ちる。ロングは階段状に積み上がる。検索で見つかり続けるからです。

どちらが良い悪いではなく、役割が違う。認知はショート、信頼はロング。 当日のスライドのタイトルには「※例外はある」と書き足してあります。きれいな法則として言い切りたくなるところですが、そうならない動画もあるので、そこは残しました。

入口(タイトル・サムネ・冒頭3秒)のパートでは、サムネの判断軸を3つだけ出しています。文字は5〜10字で大きく。コントラストと表情。そして3つ目が、TikTokやリールはサムネの上に再生数が表示されるので、白っぽい背景で数字を潰さないこと。地味ですが差が出ます。

ここにAIが効きます。昔はサムネ1案を外注して数千円・数日待ちだったものが、条件(テーマ・年齢層・文字数)を渡せば10案が数分で出る。さらにYouTube側にはサムネとタイトルを最大3案まで自動でABテストする機能があります。つまり戦略が「センスで一発当てにいく」から「複数案を出してデータに選ばせる」に変わった、という話です。

再生数を受任に変える動線:「0回目の面談」

スライド「HPは情報を渡す。動画は人柄を渡す」。01 HP=何をやっている人か(情報)、02 動画=どんな人か(人柄・温度)、03 初回面談が「初対面」ではなくなる、04 1対Nの発信がN人ひとりひとりとの「0回目の面談」になっている

当日いちばん時間を使ったのが、この動線のブロックです。バズったのに売上ゼロ、というのは普通にあります。再生数と受任の間には橋が要る。

士業の動線は2本立てで整理しました。ルートA(直接) は 動画 → プロフィール → LINE・HP → 相談。ポイントは、こちらからプッシュできるリストを持つこと。SNSのフォロワーはプラットフォームの資産ですが、LINEの友だちは自分の資産です。

ルートB(紹介) が、ローカルでの本丸です。紹介の場面で共有されるのは、ホームページではなく動画やアカウントのほう。リンク1本で済むので、紹介する側の説明コストが下がる。紹介が楽になると紹介が増えて、その紹介をまた動画が予熱する。

HPが渡すのは「何をやっている人か」という情報で、動画が渡すのは「どんな人か」という人柄です。だから初回面談が初対面から始まらない。スライドの言葉はこれです。

1対Nの発信が、N人ひとりひとりとの「0回目の面談」になっている

そのうえで、自分がいちばん大事にしている所作も1枚入れました。

動画が、立ち位置を勝手に上げてくれる。その上がった席に、自分は座らない

動画を見てくれた方は、少し「先生」扱いしてくれます。でもその席に自分で座ったら終わりで、必ず下に入る。「いえいえ、いつもお世話になっております。見ていただいて、ありがとうございます」。動画で上げて、本人が下がる。この落差で、一方的な視聴が関係に変わります。

第2部:行政書士業務でのAI活用、6連発

スライド「第2部:行政書士業務でのAI活用」。「一人で10人分」の実例6連発として、①議事録 ②PDF分割 ③工事経歴書用の請求書分類 ④入管書類の外国語翻訳 ⑤事業計画書作成 ⑥経営分析が並んでいる

後半はこの一言から始めました。

僕が10人分優秀になったわけではありません。構造が変わったんです。今までは人を雇うか外注するしかなかった「作業」の部分を、AIという外注先が、手元で24時間受けてくれる

そのうえで、最初に線を引きます。

定型・大量・変換の仕事はAIへ。判断と責任は人へ。

文字起こし、仕分け、抽出、翻訳、初稿、集計。ここは渡せます。確認、判断、責任、お客様との関係。ここは渡せません。スライドの結びはこう書きました。「怖がる必要も、崇める必要もない。仕分ければいい」

スライド「6事例に共通する型」。01 AIに渡すもの=定型・大量・変換(文字起こし/仕分け/抽出/翻訳/初稿/集計・分析)、03 人に残すもの=確認・判断・責任・お客様との関係、04 怖がる必要も、崇める必要もない。仕分ければいい

抽象論にすると持ち帰れないので、事務所で実際に動いているものだけを6つ並べました。

AIに渡すもの 人に残るもの
①議事録 録音から文字起こし、要点、決定事項、宿題(誰が・いつまでに・何を) 固有名詞の直しと最終確認
②PDFの分割 まとめてスキャンされた数十〜数百ページを、書類の切れ目で分割・リネーム 目視確認
③請求書の分類 請求書PDFから工事名・発注者・金額・期間を抽出し、工事ごとに集計 工事の実態と突き合わせて確定
④外国語の書類 段組や表の構造を保ったまま翻訳 審査目線での確認と申請上の判断
⑤事業計画書 ヒアリング内容と決算資料から、構成案と初稿 現場の情報の書き込みと磨き込み
⑥経営分析 決算・請求データから、期別・分野別・顧客別・地域別の集計 読み方と打ち手

②は「お客様から届く、全部まとめて1本のスキャンPDF」の話です。1ページずつ見て、切って、名前を付ける作業。③は建設業の決算変更届で毎年発生する請求書の山を、工事経歴書の下書きデータに変換するところまで。④は招聘状や現地の証明書などの外国語PDFで、ベタ打ちの訳文ではなく表や書式の構造を保ったまま訳せるのが要点です。仕事が「翻訳する」から「訳を審査目線で確認する」に変わります。

スライド「表も書式も、丸ごと訳せる」。段組・表・書式の構造を保ったまま翻訳できる。仕事が「翻訳する」から「訳を審査目線で確認する」に変わる。※訳の最終確認と申請上の判断は、行政書士が行う

⑤の事業計画書は、補助金だけの話ではありません。入管に出す事業計画書(経営・管理ビザなど)にも同じ型が使えます。

セミナーでは、それぞれに「前はどれくらいかかっていたか」も添えました。たとえばPDFの分割は、100ページ超を手で仕分けると半日。請求書の分類は1社で数時間から丸1日。

ただしこれは資料に載せた目安で、ストップウォッチで測った数字ではありません。 実測が要るなら、このサイトの実演記事のほうに載せています(請求書200枚で16分半、書類160枚の突合で31.7秒。どちらも架空のサンプルデータです)。

なお、この6つのうち建設業の決算変更届や入管に出す書類そのものは、行政書士の仕事です。株式会社NOSIDE GROUPが官公署に出す書類を報酬をもらって作ることはできないので、そこはノーサイド行政書士法人が受けています。

実演として用意していたもの

このセミナーは、スライドを読むだけではなく、実物を画面に出す前提で組んでいました。準備メモに残っているのは次のとおりです。

  1. アナリティクスの画面(視聴者の年齢層グラフ)。「TikTokは若者のもの」という思い込みを、イメージではなくデータで壊すため
  2. ショートとロングの再生波形の対比(上の3枚目の画像がそれです)
  3. サムネのNG/OK比較。白背景で再生数表示が消えてしまう実例
  4. AIによるサムネ10案のポン出し
  5. 入管用の事業計画書の実物。準備メモには「顧客情報のマスキング必須」と書き込んであります
  6. 決算書と請求データを丸ごと読ませた経営分析

スライド「AIでサムネは『ポン出し』の時代」。同じテーマのサムネ案が6つ並び、①5〜10文字 ②スマホで読める ③大きい文字 ④コントラスト ⑤表情 ⑥余白 という観点が付いている

6つ目が、当日の山場として設計したところでした。手順はこうです。決算書5期分と、5年分の事件簿・請求データをまとめてAIに投入する。そこから分野別・期別・顧客別・地域別に自動集計させて、推移・構成比・リピート構造・県内県外比率のグラフ群を出す。人がExcelと格闘したら何日もかかる分析が、一気に出てきます。

そしてセミナーの冒頭で見せていた自分の事務所の分析は、全部この出力でした。 後半の終盤でそれを明かす、という作りにしていました。自分の事務所のことなのに、初めて経営が見えた感覚がありました。

同じことは、顧問先の決算書と請求書でもできます。効率化の話を超えて、士業の新しい商品になり得ると思っています。ここが一番持ち帰ってほしかったところです。

ただし、その分析の中身(件数・社数・金額)は、このサイトには載せません。 お客様の情報にあたりますし、当所がどれくらいの量を扱っているかを公表する必要もないと考えているからです。手順の説明までにとどめます。

もう1点、正直に書いておきます。この6つを当日その場でどこまで画面に出したかは、記録が残っていないので断定できません。 用意していたのは確かですが、実演の結果を「こうなりました」と書けるのは、時間を測って記録を残した実演記事のほうだけです。

うまくいかないところ

ここは削らずに書きます。

AIは人名と地名をたまに間違えます。 だから議事録は必ず人が直します。ただ、ゼロから書くのと直すのとでは、疲れ方がまるで違います。

事業計画書の初稿は、正しいけれど、どこの会社にも当てはまる文章になります。 採択や許可を分けるのは、現場でしか拾えない固有の情報と、審査観点への当て込みのほうです。AIがやるのは「初稿という一番重い岩を持ち上げる」ところまでで、そこから先は変わりません。

スライド「AIの初稿は『どこの会社でも通じる文章』」。左に「採択・許可を分けるのは、現場でしか拾えない固有情報 × 審査観点」、右に「AIが普及するほど、専門家の磨き込みの価値は上がる」と並んでいる

つまりAIが普及するほど、専門家が磨き込む部分の価値はむしろ上がる、というのが当日の結論でした。

翻訳も同じです。仕事が「翻訳する」から「訳を審査目線で確認する」に変わっただけで、どこを見られるかを知らなければ確認になりません。PDF分割も請求書分類も、最後に目視する人がいなくなったら成立しません。

そして、この記事そのものの限界も書いておきます。当日の音声を残していないので、参加者からどんな質問が出たか、どこで驚かれたかは書けません。 分かっているのは、本編60分のあとの30分を、質疑応答ではなく「なんでも相談タイム」として設定していたことだけです。最終スライドには「動画のこと、AIのこと、補助金のこと、遠慮なくどうぞ」と書きました。

職印を押すのは、AIではない

スライド「AIの答えを、鵜呑みにしない——それができるのが僕らの強み」。01 今は誰でも契約書を「ポン出し」できる時代、02 でも条文の意味、どの条項がどこに効くかを読めるのは専門家、03 任せてよい。ただし裏取りは、必ず自分でやる、04 職印を押すのは、AIではなく私たち

締めはこの話にしました。

いまは誰でも契約書をポン出しできます。でも、条文の意味と、どの条項がどこに効くのかを読めるのは専門家のほうです。任せていい。ただし裏取りは必ず自分でやる。固有名詞、数字、法令の最終確認。職印を押すのはAIではなく、私たちです。

AIは、分かっている人間が使ったときに一番強い。

最後のブロックには、マインドの話も置きました。「経験と老害は、紙一重」。若手を見て「大したことない」と思い始めたら、たぶんその瞬間に自分の成長は止まる。経験と人脈では上の世代に敵わないけれど、AI・電子申請・オンライン対応の波の先頭には自分たちの世代が立てる。だから上の世代からは経験を学び、自分たちはデジタルで業界に返す——という組み立てです。

そして全体のまとめが、「AIで空いた時間を、発信に回す」。 第2部で「時間がない」を消して、その時間を第1部の資産づくりに回す。前半と後半は、ここで1本につながります。

当社でも「まずAIに全部任せましょう」という提案はしません。どこまで渡せて、どこから渡せないかを分けるところから始めます。

同じことを、御社の業務でやります。

7つの質問に答えると、その場でAIに渡せるかが分かります。

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実演は、動画でも出しています。

記事に書いていることは、全部この中で実際にやっています。

まず、一番めんどうな業務を
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